弁護士千葉博コラム

2 資格試験を目指す人たちに

■ スッと受かっていく人とは

 司法試験というと、朝から晩まで勉強にのめりこまないと受からない試験、
と思われるかも知れません

 でも、実際に超短期間で合格を果たしている人たちは、
遊びながらでも結果を出す人たちです。

 そこには、カップルで和気あいあいと楽しく勉強をし、映画に行ったり、
好きな本を読んだりしながら、結果を出している人たちがいます。
けっして1日10時間も勉強したりはしない。

 結果を出す人に、悲壮感はありません。

 彼らがそれでも短期で結果を出しているのにはちゃんと理由があります。

 彼らには、合格までのラインが見えている。
あえて言えば、自分が合格すると言うことを、時には無意識に、体で知っている。

 客観的にはとてつもなく難しい試験に立ち向かおうとしているときであっても、
そのようなことは関係ないのです。

 司法試験受験界では、毎年春に予備校が「ガイダンス」といって、
新規の学生さん達を募集するのですが、そこで個別に講師に質問をする時間があります。
こちらからすれば、個々の受験生の人たちが、どのようなことに悩んでいるのか、
どのようなことを考えているのかを知るいい機会です。

 毎年、春になると新しい受講生さん、あるいは受講生の卵である皆さんがやってきます。資格を取りたい、という熱い思いを持って、また、資格を取った後の自分の姿を思い描きながら。

 そういう希望に満ちた皆さんにお話をする機会は、私にとってはとても幸せな瞬間です。

 ところで。

 このわずかな質問時間の発言で、その方が結果を出せる人なのか、
そうでないのかは、ある程度わかります。

 結果を出せる人の質問は、「私はいつ受かるでしょうか」

 結果を出せない人の質問は、「私でも受かるでしょうか」

 違いがわかりますか?

 結果を出せる人は、最初から自分が受からないという可能性は考えていません。
受かることを前提に、「いつ」受かるのか、を問題にしているのです。

 結果を出せない人は、試験が「難しい」という思いにとらわれていますから、

 「自分は受かれるんだろうか」と、合格自体に疑問を持ってしまっているのです。

 ポイントは単純。自分で壁を作らないことにあります。

 「私は法学部じゃないからやっぱりだめでしょうか?」

 というのも、よくある質問ですね。

 やめましょうよ、「やっぱり」って。

 最初からだめだろうなあ、という気持ちがそこに見え隠れしているじゃないですか。

 「自分は他学部だから司法試験に受からない」

 「時間がないから無理だ」

 「自分は記憶力が弱いからできないだろう」

 ・・・・・・。

 一生懸命、自分ができないことの理由を探しているようにしか見えない人がたくさんいます。

 自分がいいものをたくさん持っているのに。

 試験勉強でも、それ以外でも、結果を出せるか否かは、
どのような思いで臨んでいるかにかかっています。

 勝手に作った「思い込みの壁」に閉じ込められないことが大切です。

■ 試験の情報収集に励む

 試験勉強というと、とにかく時間をかけなければ、という感覚の人もいます。
「急がなければ。」「早く始めなければ。」と。

 でも、ただ闇雲に走り出しても、方向が間違っていたら、
かえって目標から遠ざかってしまうかも知れません。
むしろ、スムーズに結果を出す人は、勉強時間に頼ったりはしていないのです。

 彼らの話を聞いてみると、勉強の進め方のヒントが見つかります。

 彼らが勉強にのめり込まなくても、
短期で結果を出せているのにはちゃんと理由があるのです。

 まず、試験受験を思い立っても、「すぐに勉強は始めない。」

 変に聞こえますか?でもそうなのです。

 さあ、資格試験を受けよう!今日が記念すべき第一日目だ。

 あなただったら何をしますか?

 テキストをそろえる?

 早起きして勉強時間が確保できるようにする?

 気合を入れてさっそく読み始める?

 その前にやることがあります。

 まず、やらなければならないことを減らすための工夫です。
まだ始めてもいないのに減らす?と思われるかもしれません。

 でも、これが大事。
受験のためのテキスト、問題集、予備校で薦められた書籍……。
一通りそろえただけでも大変です。
どう読むのかもわからない。
しかも、その中身が全部必要とは限りません。
必要なところも見きわめないでスタートを切ったのでは、
時間がいくらあっても足らなくなってしまいます。
ただでさえ時間がない中で、人と同じことをしていたのでは超短期合格なんて夢のまた夢。

 私も、最初の頃、ひたすらまじめな受験時代をすごしていました。
テキストのすみずみまで一生懸命読み込んで、覚えて、がんばりました。

 そして、その結果。合格までに4年もの月日がかかってしまいました。

 司法試験受験4回。

 3回目の受験に失敗したときはショックでした。「何でこんなにやっているのに結果が出せないんだろう」悔しかった、というよりも、もう何をしていいんだかわからなかった。そのときの気の抜けたような顔で写真に写った私が、今も机の中にあります。

 あのような思いは二度としたくはありませんし、皆さんにも味わって欲しくありません。

 試験は人が作ったものです。
作った人たちが「ここは」と思ったところが出題されます。
作った人たちが「これでどうだ」と思った形で出題されます。

 これに合わせればいいんです。カタク言えば「出題者の意図を読む」ということ。
そこに合わせた勉強ができれば、試験勉強の負担ははるかに軽くなります。
敵を知る、といってもいいかもしれません。

 その意味で、試験のための勉強は、普通の勉強よりも簡単です。
目標が見えています。
何が聞かれるかがわかっています。
「お約束」の世界です。

 「お約束」だとわかれば、わりきりが生まれます。
何をおさえればいいのかが見えてきて、勉強が加速されます。

 見えてくれば余裕が生まれてきます。

■ 司法試験合格者列―楽しそうに司法試験に受かっていった人々

 15年間、司法試験受験予備校で、さまざまな受験生さんに接して来ました。
その中には、絵に描いたような受験生タイプの人もいましたが、
本当に「イキイキと」受験生生活を駆け抜けていった人たちもいます。

 ここで何人かご紹介しましょう。

(その1)カップルで教室最前列でわきあいあい
 予備校で生講義をするときには、教室最前列から最後尾まで、受講生さん達が思い思いに好きな位置に座ってよいことになっています。
 当然、一般的には、前の方に並ぶ人の方が前向きな、かついい意味で合格にどん欲な人たちが多くて、最前列には「まじめー」といったタイプの人達が並ぶことが多いのです。
 ところが、ある年だけは違いました。
 最前列も最前列、それも私の目の前、つまり最前列のど真ん中。わきあいあいと楽しそうにしているカップルが座っているではありませんか。
 講義が始まる前や休憩時間の様子を見ていても、いつもにこにこしていて、受験中、といった雰囲気のかけらもありません。
 最初こそ「どういう人たちなのかな」と思いましたが、いざ勉強をスタートしてみると、見事にイメージが裏切られました。
 ふたりとも、講義中の私からの質問に飛びつくように答えてくる。しかも、それが、的確。>難しい質問に対しては、黙り込んでしまう人も多いのですが、この2人は違いました。しーんと静まりかえった教室の中でも物怖じせずに果敢に答えてくる。
 素晴らしい勢いと、何でも答えてやるという迫力があるのです。
 そして、休憩時間になると、ふたたび「わきあいあい」モードへ。
 切り替えが見事にできているんですね。
 勉強に打ち込んでいながら、決してのめり込んでいないんです。
 その結果、ふたりとも明るく、自分の良さを失っていない。勢いも決して失うことがないから、結果にもつながるという超好循環です。
 結果として、彼は全国でもトップに近い成績で見事旧司法試験(ロースクール制度が導入になる前の試験です。合格率は2,3%しかありません。)に大学現役で合格し、彼女も、一度は有名都市銀行に就職が決まりながらも、思いが強く試験に復帰し、1年遅れたというプレッシャーにも負けず、旧司法試験合格枠が狭まっていく中で、0.7%という超・超難関の試験を制したのでした。
(その2) 試験が終わったらハワイに行こう!
 2010年で終わりを迎える旧司法試験は、択一試験→論文試験→口述試験という流れの試験です。
 それぞれの試験で合格者が徐々に絞られ、毎年2,3%の最終合格者が生まれます。特に、最初の択一試験(マークシート式)・論文試験(記述式)は、厳しく、合格者の割合は非常に低いのです。
 1月から5月初めの択一試験までの時期は、「択一直前期」などといって、択一試験対策を集中的に行い、中には一日14、5時間も勉強するという猛者もいます。
 そして、それが終わると5月初めから7月下旬の論文試験に向けて、頭を切り換えて寸暇を惜しんで再び勉強に突入するのです。
 択一試験は○×的な五択問題、論文は記述式ですから、そこで要求されるスキルも大きく異なり、5月初めにうまく切り替えることができるかが鍵になります。
 一般的には、択一試験のあと、2、3日休んで、疲れ切った頭と体をいやして、論文ということになりますが、中にはこの切り替えが下手で、だらだらと勉強を続けてしまい、だんだん疲れて行ってしまいような人もいます。
 ところが。この人達は違いました。
 択一試験が終わったその日、彼らは、ホノルルへと飛び立ったのでした・・・。
 私も、日頃から、気分の切り替えを意識的にしなければだめだよ、択一が終わったら、パッと遊びなさいよ、といったことはいっていましたが、さすがにハワイは想定外でした。
 皆さんは、彼らの行動をどう思われるでしょうか。
 羽目を外しすぎ?常識がない?
 いえいえ。私は、彼らの行動はなかなか普通の人では踏み切れない、勇気ある行動だと思うのです。
 もし、ハワイから帰ってきて、論文試験に臨み、不合格に終わったらどうでしょう。周囲からは冷笑を浴びせられることもあるかもしれません。家族からも、ハワイなんかいってるから・・・。とこごとをいわれる可能性もあります。
 そんな危険が容易に予想される中で、彼らはあえてハワイ行きに臨んだのです。きっと、覚悟がいったことだと思います。
 そのせいもあってか、その年の論文試験、口述試験では見事な成果を出し、最終合格を果たしてくれました。
 正直なところ、さすがに、全部終わっていないうちにハワイというのはどうかなあ、という感覚は私にもあるのですが、結果を出されてしまっては文句も言えません。
 これくらいの割り切りもあっていいんだなあ、と思わされる事件でした。